弁護士・大城聡

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「『豊洲移転』と都政の闇に迫る」(11月27日)

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築地市場の状況、豊洲市場問題について、裁判の状況も含めてお話しました。

会場からも活発な意見質問が出て、築地市場の明るい光がさすような会でした。

 

<当日配布レジュメより>

 

「豊洲移転」と都政の闇に迫る(2016年11月27日)

 
1 豊洲移転をめぐる経緯と現状
(1)築地市場の役割
・首都圏の台所
・市場の役割、仲卸の仕事
・食の文化、世界の築地

(2)移転問題の経緯
・築地市場の現地再整備か、それとも移転か
・なぜ豊洲東京ガス工場跡地なのか

(3)豊洲新市場予定地の土壌汚染
・専門家会議の調査で発覚した深刻な汚染
・汚染対策費用の負担と土地の購入価格

(4)小池都知事による移転延期
・地下水2年間モニタリングの意味
・発覚した「盛り土」なし問題
2 土壌汚染対策法と市場移転問題
(1)土壌汚染対策法における汚染区域の指定
・汚染区域の種類(要措置区域と形質変更時届出区域)
・指定解除は汚染除去が必要

(2)土壌汚染対策法と卸売市場法
・移転には農林水産大臣の認可が必要(卸売市場法)
・土壌汚染に関する農水省資料
3 豊洲土地購入に関する住民訴訟
(1)汚染地の適正価格
・(適正な価格)=(汚染考慮外の価格)-(汚染対策費用)

(2)都は、汚染原因者である東京ガスから土壌汚染を考慮しない価格で取得
・財産価格審議会は、汚染を考慮しない条件で価格を算出

(3)地方財政の適正化の法規範
・地方自治法、地方財政法→公金の無駄遣いは法律違反
・住民監査請求と住民訴訟

(4)豊洲土地購入に関する住民訴訟
・専門家会議でより深刻な汚染実態が判明
・平成23年に豊洲市場予定地を汚染を考慮しない高い価格で購入
・同日に成立した別途協議によって東京ガス等は78億円を負担のみ

(5)次回の裁判日程
・日時:2017年2月9日(木)15時
・場所:東京地方裁判所703法廷
4 小池都政の豊洲市場問題に対する姿勢
(1)豊洲市場への移転の課題と行政手続のステップ
(小池都知事2016年11月4日会見資料より)
ステップ1…安全性等の検証
ステップ2…環境アセスメント
<<総合的な観点から移転するかどうかの判断>>
ステップ3…必要な追加対策工事
ステップ4…農林水産大臣への認可手続

(2)市場問題PTが検討する課題
・土壌汚染の安全性
・豊洲市場の施設の安全性、物流の機能性
・豊洲市場の事業継続性(維持管理コストの増大1日2100万円など)

(市場問題PT2016年11月15日資料より)
●豊洲に移転することがゴールではない。
●ゴールは、都民の安全で安心な食の提供を安定的に供給できる中央卸売市場(機能・ブランド)を確保すること。

5 豊洲移転への高いハードル
(1)豊洲市場への移転に関する政府の答弁書と農林水産大臣の認可
⇒政府は、「食の安全性や信頼を確保」と述べた上で、「消費者等に・・・十分な説明を行い、その理解を得るように求めている」、「政府としても、中央卸売市場の移転や運営について、市場関係者や消費者の理解等を得ることは重要であると認識している」としている。

(2)汚染を環境基準以下にするとの技術会議の提言
⇒汚染を環境基準以下に処理することを約束

(3)地下水2年間モニタリング調査で環境基準を超える汚染が検出された意味
⇒技術会議の提言に従って多額の費用を投じて汚染対策を行ったにもかかわらず、土壌汚染対策法上の「汚染の除去」ができていない事実が明らかになったことにある。汚染指定区域の解除ができない。

(4)連絡通路地下に残っている高濃度の汚染
⇒水産仲卸売場棟(6街区)と水産卸売場棟(7街区)を結ぶ連絡通路の地下に、環境基準の700倍のベンゼン、検出下限の710倍のシアン化合物など高濃度の汚染が残っている。汚染除去は物理的に極めて困難。

(5)「風評被害」ではなく「食の安全性と信頼」の問題
⇒豊洲市場に対して、市場関係者や消費者が抱く不安や信頼の喪失は、汚染対策後も環境基準を超える汚染が確認されているという明確な根拠に基づくものであり、いわゆる「風評被害」の問題ではない。

⇒858億円もの費用を投じて汚染対策工事を行った後でも、「環境基準=維持されることが望ましい基準」に到達していないことが明らかになった土地に、市場を移転することで「食の安全性や信頼が確保」できるのか、「市場関係者や消費者の理解」が得られるのかということが問題。

⇒市場にとって食の安全・安心は最重要の課題。食の安全性や信頼が確保できていない市場からは、誰も魚や野菜を買わない。

 

6 「延期」の先をどうするか-決めるのは私たち都民

(1)間接民主主義の限界

・豊洲移転計画や移転延期を都民が選んだと言えるか
・総事業費5884億円をかけた巨大公共事業の転換ができるか

(2)豊洲市場と築地市場が抱える問題
①「食の安全性と信頼」、「市場関係者、消費者の理解」を得ること
②市場関係者の負担、都民の負担を明確化すること
③民主的な合意形成、意思決定を行うこと

(3)問題解決に必要な3要素
①徹底した情報公開
②市場関係者との誠実な協議、合意形成
③透明な意思決定プロセス(例えば移転の是非を問う住民投票)

 

築地の魚や野菜を食べる子どもたちのために

「 私達は、反対運動だって、デモだって人生で一度も経験したことない者たちばかりです。魚屋として、ずっと築地で生きてきた、それだけです。そういう私たちが、なぜ訴訟をしないといけないのか、考えていただきたい。
自分達のためだけであれば、ここまでする必要はありません。でも、築地の魚や野菜を食べる都民や未来ある子どもたちのこと、そして市場で働く若者たちのことを考えれば、この問題を見過ごすことはできないのです。…移転して、汚染された食べ物を食べて、苦しむのは、一般の市民であり、未来を担う今の子ども達です。そうして何かが起きたとき、移転に賛成している人も、反対している人も、責任を取れないんです。…でも、もしも健康被害が出たら、もしも新聞で『豊洲市場食品汚染事故』が報道されるようなことが起こったら、今の原発事故のように『こんなはずではなかった』と、『想定外』との一言で簡単に済まされたとしたら、私は死んでも死にきれません。」
(汚染土壌コアサンプル廃棄差止訴訟における仲卸業者の陳述から一部抜粋)