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茨城新聞「裁判員制度6年 遺体イラスト採用相次ぐ 心理的負担配慮に賛否」(5月23日)

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刑事裁判の証拠と裁判員の心理的負担について取材を受けました。

 

(茨城新聞より)

全国の裁判員裁判で、事件現場の写真に代わりイラストが証拠採用されるケースが相次いでいる。衝撃的な遺体写真を見た裁判員の心理的負担を避けるため、裁判所が配慮しているからだ。水戸地裁で4月にあった殺人事件の裁判員裁判でも、遺体イラストが用いられた。ただ、捜査側には「イラストだけでは伝わらないものがある」との反発もある。真実の追求に「リアルさ」はどこまで必要か-。裁判員制度開始から21日で6年、意見は分かれている。

■「残虐性示す」

「血痕は黒で表しております」

水戸地裁で殺人罪に問われた男(21)=実刑確定=の裁判員裁判。4月20日の初公判で、水戸地検の検察官はこう説明すると、法定内のモニターに殺害現場のイラストが表示された。

布団に横たわった遺体の姿勢が詳細に描かれ、向きが分かるように顔の輪郭も記されている。血だまりや飛散した血は黒で塗りつぶされた。同地裁はこのイラストを証拠採用した。

同地検幹部によると、公判前整理手続きで、同地検は遺体のカラー写真を証拠請求した。だが、同地裁は「(カラー写真は)刺激的で、立証するのに必要性がない」と却下。同地検は代わりにモノクロ写真を請求したが、これも退けられた。

男は母親と共謀し、父親を刃物で切り付け殺害したとされ、同地検幹部は「(刃物を)振り下ろした力の強さや残虐性、2人がどの傷を負わせたのかを立証するのに写真が必要だった。イラストではリアルに分からない。これまでの裁判官裁判では考えられない事態」と不満を漏らす。

男の弁護人は「事実関係に争いはなく、イラストの証拠採用による審理への影響は少なかったと思う。ただ、裁判員には写真で『真実』を見てほしかった。裁判員への過度な配慮につながらないか」と今後の裁判の在り方に懸念を示す。

■選任手続きで予告

凄惨(せいさん)な事件現場の写真を目の当たりにすることによる裁判員の心理的負担を避けるため、裁判所は苦心する。

きっかけは、2013年に福島地裁郡山支部で開かれた強盗殺人事件の裁判員裁判で、現場のカラー写真を見た裁判員が裁判後、ストレス障害と診断され、国に損害賠償を求めて提訴したことだ。

これを受け東京地裁の裁判官たちは刺激的な証拠を絞り込むことを「申し合わせ」としてまとめた。

遺体や事件現場の写真などの証拠がある場合、裁判員選任手続きの際に予告し、候補者が辞退できるようにした。最高裁もこれをモデルケースとし、事前予告は水戸地裁でも実施されている。全国の裁判員裁判では遺体写真の代替手段としてCTスキャン画像を利用した例もある。

イラストが用いられた4月の同地裁裁判員裁判の判決後、記者会見に応じた裁判員・補充裁判員計7人のうち6人は「生々しい写真が出るのか不安だった」などとイラストに賛同する意見が目立った。

■必要性の吟味重要

市民を対象に裁判員の意識意向を調査する筑波大の上市秀雄准教授(心理学)は「市民は裁判員になることに不安やストレスを感じている。日常では目にしない遺体写真への不安感は大きい」と話す。

市民目線で裁判員制度を検証する一般社団法人「裁判員ネット」代表理事の大城聡弁護士は「量刑を判断する場合は写真の必要性は低くなる」と指摘。その上で「残虐性を示すため本当に写真が必要か、代わる物はないかを公判前整理手続きで吟味することが重要」と語る。(斉藤明成)