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民泊の法律問題~今後の方向性と論点~

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民泊の法律問題~今後の方向性と論点~

平成28年6月1日

「民泊サービス」のあり方検討会(以下、「検討会」といいます。)の第11回会合(平成28年5月30日開催)では、民泊に関する規制改革会議の第4次答申が紹介されました。検討会で議論のたたき台となっている「民泊サービスの制度設計について」と規制改革会議の第4次答申は、基本的に同じ枠組みです。民泊について討議する2つの政府の会議が、基本的な枠組みを明らかにしたことで、民泊の制度設計に関する方向性と論点が見えてきました。
これからの議論で変更の可能性もありますが、現時点で見えてきた方向性と論点を整理したいと思います。

第1 今後の方向性
1 旅館業法との関係
民泊サービスは、住宅を活用した宿泊の提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に貸し出すもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものと定義されています(検討会「民泊サービスの制度設計について」)。そして、この民泊サービスは住宅を活用した宿泊サービスであることから、ホテル・旅館を対象とする既存の旅館業法とは別の法制度とするとされました(第4次答申)。
「一定の要件」として、既存の旅館・ホテルと法律上異なる取扱いをするための合理的な基準を設定するとしています。例えば、日数制限、宿泊人数制限、延床面積制限等があげられています。「一定の要件」を超えて実施されるものは、新たな制度枠組みの対象外であり、旅館業法に基づく営業許可が必要とされています。
法制度の詳細は明らかになっていませんが、「一定の要件」を満たす民泊サービスを旅館業法の適用除外とする方向で議論が進んでいます。

 
2 「民泊サービス」の類型
民泊サービスは、家主居住型と家主不在型の2つの類型に分けられます。どちらの類型も届出制とする制度設計となっています。
第4次答申では、家主居住型の場合には、原則として住民票があることを要件としています。このため、家主居住型では、一人の家主が複数の住宅で民泊サービスを展開することはできないことになります。複数の住宅で民泊サービスを行う場合には、家主不在型となります。家主不在型では、「民泊施設管理者」が必要とされています。
利用者名簿の作成・保存、衛生管理、行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供などの義務は、家主居住型は家主が、家主不在型では民泊施設管理者が、それぞれ責任を負う仕組みです。
どちらの類型でも、集合住宅(区分所有建物)の場合には管理規約違反の不存在の確認、住宅提供者が所有者でなく賃借人の場合には賃貸借契約(又貸しを認めない旨の条項を含む)違反の不存在の確認が義務づけられています。
第4次答申で示された2つの類型の要件は次のとおりです。

(1)家主居住型の要件
①個人の生活の本拠である(原則として住民票がある)住宅であること。
②提供日に住宅提供者も泊まっていること。
③年間提供日数などが「一定の要件」を満たすこと。

(2)家主不在型の要件
①個人の生活の本拠でない、又は個人の生活の本拠であっても提供日に
住宅提供者が泊まっていない住宅であること。(法人所有のものも含む。)
②年間提供日数などが「一定の要件」を満たすこと。
③提供する住宅において「民泊施設管理者」が存在すること。(登録さ
れた管理者に管理委託、又は住宅提供者本人が管理者として登録。)

3 民泊施設管理者、仲介事業者への規制
民泊のルール作りでは、住宅の提供者だけではなく、施設の管理者及び仲介事業者を登録制として規制する方針です。
家主不在型の場合には、登録された民泊施設管理者への管理委託が必要とされています。
また、インターネットを活用して民泊サービスが実施されるという特徴があるため、仲介事業者についても登録制として情報提供等の義務を課す方針です。

(1)民泊施設管理者
民泊施設管理者は、登録制とし、法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、不正行為への罰則を設けるとされています(第4次答申)。

(2)仲介事業者
仲介事業者も登録制とし、①消費者の取引の安全を図る観点による取引条件の説明、②当該物件提供が民泊であることをホームページ上に表示、③行政当局(保健衛生、警察、税務)への情報提供が義務事項とされています。
また、届出がない民泊、年間提供日数上限など「一定の要件」を超えた民泊を取り扱うことは禁止するとされています。
法令違反行為を行った場合の業務停止、登録取消を可能とするとともに、不正行為への罰則を設けるとされています。

(参考)許可・登録・届出の違いについて(第11回検討会 資料3より)
○許可○
法律で禁止された行為を適法に行えることができるようにする行為。許可を受けた者は一般的に禁止された行為を行うことができる。

○登録○
行政庁に対して一定の事項を通知する行為。行政庁が備えている帳簿等に一定事項が記載されることにより、その効力が生じるもの。登録は、事実または法律行為を行政庁に表示・証明するもの。

○届出○
行政庁に書類を提出する行為。一般的に、文書を提出して行われ、行政庁に文書が到達することで効力が生じる。

 
第2 今後の論点
1 「一定の要件」の具体化
今後のもっとも大きな論点は、「一定の要件」を具体的にどのようなものにするかということです。

(1)営業日数(年間提供日数)
「一定の要件」の中で、まず問題となるのは、営業日数(年間提供日数)上限です。第4次答申では、既存の「ホテル・旅館」とは異なる「住宅」として扱い得るようなものとすべきであり、年間提供日数上限による制限を設けることを基本として、半年未満(180 日以下)の範囲内で適切な日数を設定すると記載されました。これに対して、検討会では、例えば30泊(60日)以内の制限を設けるべきとの意見がある一方で、賃貸物件の場合、営業日数が1年間のうち半年だとビジネスとして成り立たないため、日数制限には反対との意見があります。
海外の例では、イギリスが年90泊以内、オランダ(アムステルダム)が年60泊以内と紹介されています。
今後、営業日数(年間提供日数)上限を設けるか否か、設けるとして何日とするのかが主な論点の一つになると思われます。

(2)宿泊人数
検討会では、「宿泊人数が増えれば公衆衛生上のリスクは高まるので、1日当たりの宿泊人数の制限は必要」、「1日当たりの宿泊人数(例えば4人以内)の制限を設けるべき」、「ニーズを考慮して、4人より増やすべき」などの意見が出ています。オランダ(アムステルダム)が同時宿泊者4人以内、ドイツ(ベルリン)が同時宿泊者8人以内という海外の例も紹介されています。

(3)住居専用地域での民泊実施の可否
旅館・ホテルは、用途地域の関係で立地に制限があります。これに対して、民泊サービスの実施は、「住宅」として扱い得るような「一定の要件」が設定されることとなれば住居専用地域でも可能であるとされています。2つの会議とも同じ文言を使っていますが、第一種低層住居専用地域等すべての住居専用地域で可能とするかどうかは言及されていません。
また、「地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能」としていますが、どの程度まで条例に委ねられるのかもまだわかりません。
地域住民の生活に密着した問題であり、住居専用地域で民泊を認めるかどうかは今後の重要な論点となります。
※参考:用途地域(国土交通省)
http://www.mlit.go.jp/crd/city/plan/03_mati/04/

(4)建築基準法・消防法等の関連法令の取扱い
現在、旅館・ホテルと共同住宅では、建築基準法や消防法における取扱いが大きく異なります。民泊サービスの提供者は、安全性の確保や近隣住民のトラブル防止のため適正な管理、一般的な衛生水準を確保するとされていますが、関連法令の基準が共同住宅のままで良いのか、それとも民泊サービスを提供する場合には一定程度厳格な基準とするのかも問題となります。
旅館・ホテル側からは、均衡がとれるように旅館・ホテルの規制緩和を求める意見もあり、今後の議論が注目されます(第11回検討会 資料4参照)。

(5)共同住宅の一棟貸し、面積規模等に関する意見
検討会では、「マンションの一棟貸しやその大半を民泊として使用するような形態の民泊は、既存のホテル・旅館営業と何ら変わることはないため排除すべきである」、「面積規模などが一定以下のものに対象を限定すべき」、「新たにマンションを建てて、民泊に転用するのは認めるべきではない」などの意見が出されています。「一定の要件」の中に、これらの意見を反映するかどうかも、今後の民泊の実施形態を左右する大きな要素になると考えられます。

2 地方自治体の裁量をどの程度認めるのか
旅館業法では、政令で施設の構造設備の基準は地方自治体の条例で定めるとされています。民泊に関する施設の構造設備について条例で定めることができるようにするかどうかが注目されます。
また、住居専用地域について、検討会及び第4次答申は、「地域の実情に応じて条例等により実施できないこととすることも可能」としていますが、条例でどのように規制できるようにするかも重要な論点となります。

 以上