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民泊と地方自治体の役割

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1 はじめに

民泊に関しては、現在、国の「民泊サービスのあり方に関する検討会」で議論がなれています。その議論の中で、住民に身近な存在である地方自治体の重要な役割が浮かび上がってきています。そこで、今回は、民泊の実態調査、苦情・相談における地方自治体の役割について整理しました。
2 京都市の取り組み
(1)安全安心な観光を重視
京都市は、市のホームページで「民泊の利用及び提供に当たって」との文書を公表して、宿泊の際には必ず旅館業法の許可を受けた施設であることを確認してくださいとしています。このページでは、「旅館業法に基づく許可施設一覧」が見られるようになっています。京都市は、民泊と観光の関係について、安全と安心を重視する姿勢を明確にしています。

京都市は、民泊を利用する人に対して、
「現在、市内においてインターネットの仲介サイト等を介して、空き家や集合住宅の空き室などを宿泊客に提供する、いわゆる「民泊」が急増しています。
自宅の一部を提供する場合であっても、「宿泊料とみなすことができる対価を得て人を宿泊させる業を営む場合」には、旅館業法第3条に基づく許可を受ける必要があります。また、本市では、宿泊客の皆様に、許可を受け、安全・安心の確保された宿泊施設を御利用いただくことこそが、「おもてなし」につながると考えております。安全・安心の確保できた宿泊施設を御利用いただくこと、ほんまもんの京都の旅を堪能していただくために、宿泊予約の際には、必ず許可を受けた施設であることを御確認ください。」
としています。

他方、民泊の提供を予定している人に対しては、
「「民泊」については、国において規制緩和の議論等がなされていますが、本市においては、旅館業法の許可を受けずに、営業することはできません。旅館業法をはじめ、消防法、建築基準法など関係法令についても御確認いただき、旅館業法の許可を受けたうえで、営業を始めてください。旅館業法違反には、罰則も規定されています。」
として、旅館業法の許可を求めています。

参考資料:京都市「民泊の利用と提供に当たって」
参考資料:京都市「旅館業法に基づく許可施設一覧」
(2)京都市の調査
このような京都市の姿勢の背景には、市が独自に行った調査があります。「京都市民泊施設実態調査の中間報告について(速報)」(平成28年1月25日)では、で市内民泊施設(約3,200件)の約8割を掲載している最大規模の民泊仲介サイト(airbnb)を対象として、次の情報に関する調査結果が報告されています。

<民泊仲介サイトに掲載されている情報>
① 施設数及び施設タイプ
② 施設所在地
③ 運営しているホストの住所地
④ 一泊当たりの料金
⑤ 宿泊可能人数
⑥ 一回の利用における最低宿泊日数他

中間報告では、京都市内では2,542件の民泊施設が「airbnb」に掲載されており、下京区、中京区、東山区で半数以上(1,379件 54.2%)を占めていることがわかりました。また、戸建ての割合が34.6%、集合住宅の割合が62.2%と、集合住宅が高い割合を占めています。
施設タイプ別に見ると、戸建てにおいては、一棟貸しが約57%、部屋貸しが約40%となっている一方で、集合住宅においては区画の一戸貸しが約87%、一戸内の部屋貸しが約12%となっており、大きく傾向が異なっていることも判明しました。

2,542件において、掲載情報により施設所在地の特定ができたのは全体の約4分の1である679件(26.7%)でした。また、ホストの所在地は、京都府外在住者(国内)が26%であり、海外在住者も約2%となっているなど、約30%が京都府外から運営している状況もわかりました。

京都市は、最終報告までの間に、他の仲介サイトの情報の調査に加えて、①所在地が判明したものについては都市計画法に基づく用途地域の適合や旅館業法に基づく許可の有無等の確認、②関係者に対するヒアリング調査を行うとしています。
ヒアリングでは、民泊施設の運営状況や周辺住民とのトラブルの有無、無許可営業に対する考え方等を、民泊施設周辺の地域住民、民泊仲介サイト運営事業者、民泊業務代行事業者、不動産管理会社(分譲、賃貸)、市内で民泊を運営しているホストなどを対象に予定しています。

民泊の現状を知り、今後の方向性を議論するための素材として、注目すべき調査です。

参考資料:「京都市民泊施設実態調査の中間報告について(速報)」

 

3 民泊に対する住民からの苦情相談と自治体の意見
第5回「民泊サービスのあり方に関する検討会」では、港区、渋谷区、新宿区から報告がありました。

港区は、「当該物件が A 社のサイトに登録され、『民泊』施設として使用されているのでやめさせたい(やめさせてほしい)。」という苦情相談が平成28年1月現在対応中のもので、一戸建て(賃貸)2 件、共同住宅(区分所有)3 件、共同住宅(賃貸)2 件あるとしています(いずれのケースも家主は不在)。苦情の理由は、民泊施設としての違法な使用、外国人の出入りが多くて不安(防犯、火災、感染症)、ごみの処理方法、夜間騒音、共用部での不適切な行為等があげられています。

渋谷区では、旅館業法に関する相談件数が平成27年になって急増しています。。
平成26年には相談件数が320件だったのに比べて平成27年は12月末までですでに740件となっています。「マンションの何戸かが外国人を対象とした宿泊行為を行っている」、「騒音、ゴミだし」などの民泊に関する苦情対応事例が31件報告されています。

新宿区でも、「深夜のドア開閉や共用部分での雑談など、昼夜を問わず騒音が絶えない」などの苦情が寄せられ、「真夜中に、外国人宿泊客に傘を盗まれたり、植木鉢を割られるなどの被害を受けた」、「ナイフを持った外国人宿泊者が自宅敷地に入り、木を切っていたため警察に通報した」など深刻な事例も報告されています。
このような実態を踏まえて、第5回「民泊サービスのあり方に関する検討会」で、港区と新宿区からは次のような意見が出されています。

<港区>
旅館業法の規制緩和に対する考え方
簡易宿所営業の構造設備基準を緩和して、許可取得を促進する場合には次の点について解決を図ることが不可欠と考えます。

①賃貸借契約や管理規約(区分所有建物の場合)に反していないことを許可の要件とする。
(説明)
現在最も問題となっているのはこの点であり、これを解決しないまま許可取得を促進した場合は、さらに問題を複雑化させると考える。通知ではなく、法令に規定することを要望する。

②建築基準法、消防法との調整を国において十分に行う。
(説明)
旅館業法の許可を得た施設が、他法に抵触する事態が生じないよう、国において関係省庁間で十分な調整を行うよう要望する。

 

<新宿区>
「民泊サービス」に関する要望内容について
1 「民泊サービス」について、旅館業法に位置付けること
(1)以下の事項について、旅館業法の適用除外としないこと
●営業者は、自ら管理者となって、必要な措置を講ずること。又は、営業施設ごとに管理者を設置すること
●管理者は、同一施設または敷地内に常駐し、宿泊しようとする者との面接を行うことを義務とすること
●旅館業法の衛生措置及び設備の基準について、条例で別に定めるものとすること
●営業者は、感染症の拡大を防止するため、宿泊者等に対し適切な措置を講じること
●旅館業法の立ち入り権限、不利益処分及び罰則について適用すること
(2)新たに以下の規定を設けること
●営業者は、「民泊サービス」の営業申請に先立って、近隣住民に適切な説明を行わなければならないこと
●管理組合の利用規約や施設所有者との賃貸借契約に違反していないことを確認するなど、近隣住民の理解を得るための措置を講じること
●営業者は、許可を受けた施設に、利用者及び近隣住民が認識できるよう、看板などでその旨の掲示をすること

2 建物の安全確保のため、国土交通省及び消防庁等との省庁間協議を行い、建築基準法、消防法等の関係法令の調整を行うこと

3 旅館業法違反(無許可営業)の施設について、あっせん・予約を取り扱う者に対して、法に基づく適切な措置を講じること
(以上、下記各参考資料から抜粋)

参考資料:港区提出資料
参考資料:渋谷区提出資料
参考資料:新宿区提出資料
4 民泊サービスと地方自治体の役割
「民泊サービスのあり方に関する検討会」では、中間整理案として、3つの基本的視点を掲げています。
① 衛生管理面、テロ等悪用防止の観点から、宿泊者の把握を含む管理機能が確保され、安全性が確保されること。
② 地域住民とのトラブル防止、宿泊者とのトラブル防止に留意すべきこと。
③ 観光立国を推進するため、急増する訪日外国人観光客の宿泊需要や、空きキャパシティの有効活用等地域活性化などの要請に応えること。

この3つの視点は、地方自治体が民泊の問題と向き合う上でも重要なものです。
法整備に先行する形で民泊は進んでいます。
そのため地域住民の生活に影響があれば、その苦情相談の窓口は地方自治体になります。また、民泊の実態は地域によって異なります。そのため、地方自治体が自らの地域で民泊がどのように行われているのか、まずは実態を調査し、把握することが必要です。京都市の調査はその意味で貴重な先行事例だといえます。
さらに、旅館業法だけではなく、建築基準法、消防方等の関係法令でも地方自治体は大きな役割を担っていますから、民泊の今後の制度設計においても地方自治体が実態を踏まえた意見を述べていく意味は大きいと考えられます。

                                               以上

(2016年3月18日)