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民泊と旅館業法の「簡易宿所」

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厚生労働省と観光庁の「民泊サービス」のあり方に関する検討会では,民泊を旅館業法(以下「法」といいます。)上の簡易宿所として位置づける方向で議論が進んでいます。

そこで,簡易宿所とは何か,簡易宿所にはどのような規制がかかるのかについて整理をしてみたいと思います。

1 簡易宿所とは
「簡易宿所営業」とは,宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいいます(法2条4項)。
「下宿営業」とは,施設を設け、1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいいますので(法2条5項),簡易宿所における滞在期間は1か月未満である必要があります。

2 簡易宿所に対する規制
⑴ 営業許可
簡易宿所営業を行おうとする場合,都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区の場合,市長又は区長)の許可を受ける必要があります(法3条)。

⑵ 施設の構造
簡易宿所は,下記の構造を備えている必要があります(法3条2項・法施行令1条3項)。ただし,季節的に利用されるもの、交通が著しく不便な地域にあるものその他特別の事情があるもの(例えば,キヤンプ場、スキー場、海水浴場等において特定の季節に限り営業する施設や体育会、博覧会等のために一時的に営業する施設等)については,下記基準の一部が適用除外となります(法施行令2条,法施行規則5条)。

① 客室の延床面積は、33㎡以上であること。
② 階層式寝台を有する場合には、上段と下段の間隔は、おおむね1m以上であること。
③ 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
④ 当該施設に近接して公衆浴場がある等入浴に支障をきたさないと認められる場合を除き、宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備を有すること。
⑤ 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備を有すること。
⑥ 適当な数の便所を有すること。
⑦ その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。

⑶ 宿泊拒否の制限
営業者は,宿泊しようとする者が,伝染病の疾病にかかっていると明らかに認められるときや,賭博その他の違法行為等をする恐れがあると認められるとき等を除き,宿泊を拒んではならないとされています(法5条)。

⑷ 宿泊者名簿の備付け
営業者は、宿泊者の氏名、住所、職業その他の事項を記載した宿泊者名簿を備えなければならないとされています(法6条)。宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは,その戸籍及び旅券番号についても記載する必要があります(法施行規則4条の2)。

⑸ 罰則
無許可営業や,都道府県知事等による許可の取消し,営業停止命令に違反した場合,6か月以下の懲役又は3万円以下の罰金に処せられます(法10条)。
また,正当な理由がないのに宿泊を拒んだ場合,宿泊者名簿の備付け等を怠った場合等には5000円以下の罰金に処せられます(法11条)。
なお,宿泊者が営業者に対して,氏名,住所,職業等の事項を偽って告げた場合,拘留または科料に処せられます(法12条)。

3 民泊との関係
前記のとおり,「民泊サービス」のあり方に関する検討会では,民泊を簡易宿所として位置づける方向で議論が進んでいますが,これをそのまま適用するのではなく,一部の要件を緩和すべきではないかとの意見も出されています。
例えば,簡易宿所の面積基準(33㎡)は,民泊のようなケースに適用するには合理性がないのではないか,法令上,簡易宿所の枠組みでは玄関帳場の設置義務はないが,条例で設置を求めているものもあるので,そういった規制のあり方を,各地方公共団体の事情を考慮しつつ判断する必要があるのではないか,旅館業法の宿泊拒否の制限規定は,ホームステイ型民泊には馴染まないのではないか,と言った意見が出されています。
民泊の規制のあり方については,まだ流動的ですので,今後も議論の行方を注視していきたいと思います。

(2016年2月17日)