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【民泊の法律問題】大田区の特区民泊条例について

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平成27年12月7日、東京都大田区で「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」(以下、「大田区民泊条例」といいます。)が可決、成立し、平成28年1月29日、施行されました。

この条例は、国家戦略特別区域法(以下「法」といいます。)が規定する、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関して必要な事項を定めるものです(法の詳細については、「民泊の法律問題」をご覧下さい。)。
条例の施行にあたり、「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する規則」(以下「規則」といいます。)、「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)が制定されています。
以下、大田区民泊条例、規則及びガイドラインの詳細について見ていきます。

1 実施区域
大田区における実施地域は、建築基準法第48条によって「ホテル・旅館」の建築が可能な用途地域(第一種住居地域にあっては3000平方メートル以下)とされています。
具体的には、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域、第一種住居地域(3000平方メートル以下)となります。

2 期間
法は、外国人滞在施設を使用させる期間は、7日から10日までの範囲内において条例で定める期間以上であることを求めていますが、大田区民泊条例は、この期間を7日間としています(大田区民泊条例2条)。

3 近隣住民への周知
特定認定を受けようとする者は、予め事業計画の内容について近隣住民に周知しなければならないとされています(大田区民泊条例4条)。
ここでいう「近隣住民」とは、以下の者をいいます(規則9条)。
⑴ 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物に他の施設が存する場合の当該他の施設の使用者
⑵ 次のア又はイに掲げる建物(一方の建物の外壁から他の建物の外壁までの水平距離が原則として20メートルを超えるものを除く。)の使用者
ア 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷地の境界線に接する敷地に存する建物の使用者
イ 当該特定認定を受けようとする事業で使用する施設の存する建物の敷地の境界線から道路、公園等の施設を挟んで隣接する建物の敷地の境界線までの水平距離が原則として10メートル以下である場合の当該建物の使用者
「周知」は、次の事項について書面で行うこととされています(規則10条)。
⑴ 特定認定を受けようとする者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)
⑵ 施設の名称及び所在地
⑶ 近隣住民からの苦情等の窓口の連絡先(担当者名、所在地及び電話番号)
⑷ 廃棄物の処理方法
⑸ 火災等の緊急事態が生じた場合の対応方法

4 審査基準
⑴ 申請書記載事項
外国人滞在施設を営業するため特定認定を受けようとする者は、区長に対し、申請書を提出する必要があります。
申請書には、①施設の名称、②施設の所在地、③その行おうとする事業の内容、④施設の構造設備の概要並びに各居室の床面積、⑤施設内の清潔保持の方法、⑥提供する外国人旅客の滞在に必要な役務の内容及び当該役務を提供するための体制、⑦施設のホームページを記載することとされています(規則2条・第1号様式)。
このうち、「④施設の構造設備の概要」は、構造設備の概要に想定している最大滞在者数を記載させ、宿泊者の睡眠、休憩等の用に供する部分の床面積を合計した値について3㎡当たり1名を超えないこと、使用する寝具は最大滞在者数を超えないことを指導するとされています。
また、「⑥提供する外国人旅客の滞在に必要な役務の内容及び当該役務を提供するための体制」は、施設を事業に使用するための権利を有していること、近隣住民からの苦情等の窓口、廃棄物の処理方法、火災等が発生した場合の対応方法、施設の使用開始時及び終了時に滞在者の本人確認をする方法、契約期間中、滞在者本人が適切に施設を使用しているかどうか状況の確認を行う方法、施設の滞在者に対して、使用開始時に施設に備え付けられた設備の使用方法等について外国語を用いて説明できる体制等について記載が求められています(ガイドライン第4)。
⑵ 添付書類
申請書には、住民票の写し(申請者が個人の場合)、定款や登記事項証明書(申請者が法人の場合)、賃貸借契約書等(外国語表記とその日本語訳)、施設の構造設備を明らかにする図面、滞在者名簿の様式、施設を事業に使用するための権利を有することの証明書、近隣住民へ周知した書面及びどのように周知、説明、近隣住民の理解を得たかを記載した書面、消防法令に定める手続を行ったことが確認できる書類等を添付することが求められています(ガイドライン第5)。

5 滞在者名簿の備付け、滞在者の確認
⑴ 滞在者名簿の備付け
認定事業者は、滞在期間を記載した滞在者名簿を備え、これを3年以上保管することが求められています(規則6条)。滞在者名簿は、保管場所を明確にしておく必要があります(ガイドライン第4-8)。

⑵ 滞在者の確認
ア 日本人及び日本に住所を有する外国人の場合、本人と確認できる顔写真付の身分証明書等で、外国人の場合は、旅券の呈示を求め本人確認を行うとともに、旅券の写しを滞在者名簿とともに保管する必要があります(ガイドライン第4-8)。
イ 認定事業者は、滞在者が施設の使用を開始する際に、対面で滞在者名簿に記載されている滞在者と実際に使用する者が同一の者であることを確認する必要があります。この確認は、現場で対面によって行う場合の他、現場でないところで対面によって行うこと、テレビ電話等によって行うことも認められています。
また、認定事業者は、滞在者が施設の使用を終了する際にも、対面によって滞在者名簿に記載されている滞在者と実際に使用した者が同一の者であることを確認する必要があります(ガイドライン第4-8)。

6 認定の公表
特定認定を受けた施設は、大田区のホームページに公表されます。
認定事業者は、特定認定を受けた施設の郵便受け、玄関扉付近等に、事業開始時までに当該施設である旨の表示(施設名及び緊急連絡先)をすることが求められます(ガイドライン第4-10)。

7 立入調査等
区長は、職員に、認定事業者の事務所又は外国人滞在施設に立ち入り、又は関係者に質問させることができるとされています(条例3条)。

8 大田区説明会
大田区は、平成28年1月から3月の間、大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)説明会を実施しました。このうち,同年2月10日に行われた第2回説明会に参加してきました。
説明会では、前述した審査基準や指導のポイントについて説明がなされました(申請書や審査基準等については、大田区のホームページで公表されています。)。
また、事前の相談は、区の生活衛生課で物件が特区民泊の要件を満たしているかを確認したうえで、所轄の消防署に相談してもらいたいこと(消防署への相談は必須)、特区民泊を始めた場合、当該建物の底地は非住宅用地となる可能性があるため、従来住宅用地であった場合、固定資産税額が変更になる可能性があること、認定施設から出たごみは、事業系ごみとなることなどの説明がありました。
認定施設から出たごみは事業系ごみとなりますので、その処理責任は認定事業者が負うことになり、廃棄物処理業許可業社に収集を依頼する必要があります(処理費用は認定事業者の負担になります。)。
なお,質疑応答の中で,申請に際してマンション管理規約の提出は求めていないとの回答がありました。そのため,管理規約上民泊が認められていない場合であっても,認定がなされる可能性があります。事前に求められている近隣住民への周知にあたって,管理組合等から管理規約上民泊が認められていないなどの苦情が明らかになった場合,認定が下りない可能性がある,また,認定後に苦情が明らかになった場合,認定取消事由となりうるとのことです。

以上