弁護士・大城聡

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政治資金監査とコンプライアンス

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今、問題となっている政治とカネ。

小渕優子前経済産業大臣の政治資金疑惑では東京地検特捜部も動き始めました。
このコラムでは、コンプライアンスという観点から考えたいと思います。
政治資金監査は、外形的・定型的確認

政治資金規正法では、国会議員が代表を務める資金管理団体や政治団体(これらを「国会議員関係団体」といいます)は、すべての支出について、領収書や明細書の確認が求められています。
確認するのは、政治資金規正法で定められた登録政治資金監査人です。
弁護士、公認会計士及び税理士が研修を受けると、登録政治資金監査人として登録できます。
私も登録政治資金監査人として登録している一人です。

国会議員関係団体は、すべての支出について領収書等の保存が義務付けられており、登録政治資金監査人が確認して、収支報告書を毎年、選挙管理委員会に提出する仕組みになっています。(収支報告書が提出されているので、この意味では透明性があると言えます。)

ではなぜ、後になって、SMバーの領収書が出てきたり、特捜部が動くような疑惑となるのか。
それは、政治資金規正法が、監査の基本的性格を、外形的・定型的確認としているからです。

つまり、領収書の存在を確認すれば、中身について確認すること、公職選挙法に違反した支出であるか否かという内容は監査の目的ではないとしているのです。これは政治活動の自由に配慮し、公職選挙法等の関係法令に従っているかどうかなどの支出の妥当性は国会議員関係団体側がするものとされています。

法の目的を超えて監査の時に意見することは可能ですが、制度として監査人に求められるのはあくまでも外形的・定型的確認なのです。

ちなみに、領収書の3要素は、「金額」、「日付」、「但し書き」であるとされ、監査人はすべての支出について、これらの記載があるか確認します。
これは膨大かつ地道な作業です。
外形的・定型的にこれらを確認するのが、「監査」なのです。

 

今の政治資金監査の仕組みはコンプライアンス失格

1枚1枚、すべての領収書を確認しても、その監査は、国民が求めている信頼に応えるものではありません。
国民が求めているのは、政治資金の適正な使い方であり、おカネに左右されない公正な政治の実現です。

コンプライアンスで求められることは、顧客(政治資金の場合には有権者)の期待に応え、信頼を築くこと、その信頼を守ることです。

外形的・定型的に、領収書の存在だけを確認するのでは、今回のような問題が起こることを防ぐことができません。
支出の中身の妥当性については誰もチェックする仕組みになっていないのです。

今の政治資金規正法の監査には、国民の期待に応えておらず、コンプライアンスとしては失格です。

 

政党は妥当性(中身)の監査を

コンプライアンスは、事前対応(予防策)と事後対応(危機管理)に分けて考えられます。
第三者委員会の設置等による原因究明、謝罪、責任者の進退問題等は事後対応(危機管理)の問題です。

問題が発覚した時には、事後対応(危機管理)を適切に講じると共に、
次の問題発生に備えて、予防策を講じることが不可欠です。

具体的な予防策としては、
政治活動の自由に配慮しながらも、すべてを政治家個人に委ねるのではなく、
政党は組織として、政治資金の使い方の妥当性(中身)についても、監査すべきです。

各政党が、都道府県レベルで、所属国会議員の政治資金について、
その使い方が適切かどうか、公職選挙法違反の可能性がないかどうか確認するのです。

コンプライアンスの要点は、信頼を築き、その信頼を守ることです。

これは国会議員個人の問題ではなく、政治資金の使い方という政治全体の問題です。
今は、政治のあり方そのものが問われています。
個々の政治家だけではなく、政治そのもの信頼が問われているのです。

コンプライアンスの観点からは、今が次の問題を防ぐための事前対応(予防策)を講じる好機だと思うのです。